【木曽の夏と映画『国宝』】

梅雨も明け、いよいよ夏本番を迎えました。
とはいえ、ここ木曽の朝夕は、半袖では寒いと感じるほど。澄んだ空気とひんやりとした風が、都会の蒸し暑さをすっかり忘れさせてくれます。

先日、大学時代の友人が30年ぶりに九州から遊びに来ました。その涼しさに、「まるで別世界だ」と何度も感嘆し、2週間ほど滞在し帰っていきました。

その間、せっかくなので映画『国宝』を観に行きました。映画館は、独占状態で10人たらず、その空気感はたまらなくいい。

この作品は、自らの芸を極めることだけをひたすら追い求めた男の人生と、それを取り巻く人間模様が描かれていました。

恋人も、隠し子として生まれた娘さえも、芸の前ではすべてを捨て去る。
それが決して地位や名誉のためではなく、ただ芸の真髄を追い求めた結果、やがて人間国宝という称号にたどり着いた。その過程のすさまじさと孤独には、言葉を失うほどのものがありました。

同じく芸術の世界に関わる者として、その覚悟と生き様には、心の奥底を激しく揺さぶられました。
演技の力強さ、演出・構成の緻密さも相まって、非常に見応えのある一本でした。

静かな山の町・木曽の夏に、こんなにも重く、美しい映画と出会えたことに、深く感謝しています。

また、私と親交のあった人間国宝になられた先生達の仕事にかけた情熱とそれぞれの人間味あふれる個性をあらためて想い出すことになりました。

人間国宝である加藤孝造先生から頂いた鬼