漆は木から採集される東アジア特有の樹脂です。日本では縄文時代より、土器をはじめあらゆる器物に耐久性を求め、また或る時には彩色や加飾を施し、人々の心を慰め魅了してきました。
奈良時代の仏像彫刻の傑作“阿修羅像”は粘土で成形された原形に麻布を張り重ね、その上をコクソ〈木粉と漆などを練り合わせた物〉と言われる下地漆で細部を整え、漆を塗って仕上げた脱乾漆像としてあまりに有名です。
先人の残してきた漆の仕事と技法は実に幅広くかつ豊かで、まことに驚くばかりでありますが、現代においてもなお創造性あふれる可能性を秘めた自然からの恵み、それが漆ではないかと私は思います。